PRACTICAL 概要
河盛 隆造 先生
順天堂大学医学部 内科学・代謝内分泌学 教授
ピオグリタゾンの有効性と安全性を大規模市販後調査によって検証する(日本)。
チアゾリジン誘導体で懸念されていた肝・胆道系の重篤な副作用が出現するかについて必要十分な例数で検証すべく、
大規模市販後調査である前向きコホート観察試験PRACTICAL( PRospective ACTos practICAL experience )が実施された。
あわせて日本の2型糖尿病においてピオグリタゾンの有効性にどのような特徴があるのかについて検証した。
日本人の2型糖尿病は欧米と異なり、 「非肥満」と「インスリン分泌不足」の傾向が強い。
インスリン抵抗性改善作用を薬効とするピオグリタゾンが、 安全かつ有効であるのか、非常に意義深い試験である。
わが国においてピオグリタゾンを処方されている糖尿病患者。総数26,409例が登録され、
2004年に行った「安全性評価」では22,943例、「有効性評価」では17,760例が対象となった。
試験は1999年から実施し、今回の中間集計ではほぼ最終集計と同等の結果となる解析が行われた。
なお、本成績は、第65回米国糖尿病学会(ADA)にて発表された。
有効性評価を行った17,760例の投与開始時背景因子をみると、男女比はほぼ1対1
(男性50.3%、女性49.7%)、65歳以上が45.0%、糖尿病罹病期間5年以上例は65.1%で、
BMI25kg/m2以上の肥満例は49.1%であった。年齢の分布は、日本の糖尿病患者の分布とほぼ等しく、
肥満例が増えてきている日本の糖尿病患者の現状をよく反映していた。
HbA1cは早期より有意に低下し、その効果は、投与開始18ヵ月後まで持続していた
ピオグリタゾン投与前後のHbA1c変化量は、投与平均期間12.2±7.3ヵ月の時点において、-0.9%であった。
投与開始時と比較してHbA1cの低下が認められた症例は全体の75.5%だった。次に、HbA1cの変化を経時的に追うと、
ピオグリタゾン投与開始3ヵ月後より有意な低下(vs 投与開始時)が認められ、その効果は投与開始18ヵ月後まで持続していた。
インスリン分泌能に影響せず抵抗性を改善。非肥満・低インスリンでも有効
次に、ピオグリタゾンは「インスリン分泌能に影響をせずインスリン抵抗性を改善」していたことが明らかになった。
空腹時血糖値170mg/dL以下の689例において検討したところ、ピオグリタゾン投与によりインスリン抵抗性の指標であるHOMA-Rは
有意に低下していたが、インスリン分泌能の指標であるHOMA-βに変化は認められなかった(図1)。
またピオグリタゾンによるHbA1c改善作用は、「肥満度」や「血中インスリン濃度」に影響されていなかった。
投与開始時のBMIを同じ症例数となる4群に分けて(4分位)検討したところ、BMIが最も低い群においてもHbA1cはピオグリタゾン投与により
有意に低下していた(図2)。同様に、投与開始時の空腹時インスリン値(FIRI)を検討したところ、いずれの群においても
HbA1cの有意な低下が認められた(図3)。また、罹病期間における検討では、罹病期間1年未満で1.3%を超えるHbA1cの
低下が認められ、より早期にピオグリタゾンを使用することでより高い効果が得られることが示唆された(図4)。
これらの結果は男性より女性の方が変化量が大きかった。
ピオグリタゾンのより早期での使用の有用性が示唆される
ピオグリタゾン投与開始前に使用していた併用薬別によってHbA1c低下度を比較すると、
ピオグリタゾン単独投与例およびいずれの併用薬との組み合わせにおいても同様のHbA1c低下傾向が認められた。
投与開始6ヵ月後に約1%の低下を示し、その効果はその後も持続し、一定した血糖コントロールを示した。
SU薬であるグリベンクラミドの併用用量別に検討した結果、グリベンクラミド 5mg/日以下群では5mg/日超群に比べ、
HbA1cの低下量および7%未満達成率がより大きかった。 したがってSU薬が高用量必要になった状態でピオグリタゾンを併用するよりも、
低用量の時に併用した方が より高い効果が得られた。つまり、ピオグリタゾンの投与を早期より開始する必要性が示唆されたと考えられる。
糖尿病に特有の脂質代謝異常も改善
糖尿病患者では、高トリグリセライド(TG)血症と低HDLコレステロール(HDL-C)血症を合併していることが多く認められる。
そこで、ピオグリタゾンがこれらの血清脂質に及ぼす影響について検討したところ、ピオグリタゾン投与によってTG値の有意な低下と
HDL-C値の有意な増加が認められた。とくに、スタチン系薬剤やフィブラート系薬剤がピオグリタゾンに先行して投与されていた
症例でもTG値の低下とHDL-C値の上昇がみられたことは注目に値する。糖尿病患者において高TG血症・低HDL血症を合併すると
心血管疾患の発症リスクを高めることが報告されており、糖尿病患者に合併するTG値とHDL-C値の改善が同時に認められたことは意義深いと考える(図5)。
副作用好発現例のプロファイルも明らかに
安全性評価の対象となった22,943例中、「肝・胆道系副作用」が発現したのは4.2%(963例)であった。
このうち18例(0.08%)では重篤な副作用が報告されたが、同じチアゾリジン薬のトログリタゾンで
認められた劇症肝炎・肝不全の発現は1例も認めなかった。主な副作用としてALT値の上昇が2.2%(511例)に認められた。
肝・胆道系疾患の合併がある症例で 発現率が高く、異常発現症例中の異常の程度を比較するためにALT値の最高値が3Nを超える
症例率について検討したところ、 とくにウイルス性肝障害を合併する例で高く、注意が必要である。
また、浮腫発現については、全体で8.1%(1,865例)であったが、男性(4.2%)よりも女性(12.1%)に
おける発現頻度が有意に高く、女性の相対リスクは3倍であった(図6)。
心不全発現率は、全体で0.34%(79例)であったが、約60%の47例が重篤な症例でなかった。
回復しなかった症例は4例あった。心不全発現率は、投与禁忌の心不全合併例で5.2%と最も高く、
ついで慎重投与例である心疾患合併・既往例が1.3%であった。
心不全合併例では投与しないこと、心疾患合併・既往例では安全性の観点から低用量の1日15mgから
投与を開始し、経過を十分に観察しながら慎重に投与することが必要である。
また、女性・高齢者でも安全性の観点から15mg/日から投与を開始することが望ましいと考えられた。